亜衣子の指差す方を見ると、白雪姫の衣装を着た日本人離れした顔立ちの女が欧米人のような大げさな手振りと身振りで客に愛敬を振りまいていた。アニメの白雪姫に良く似た顔をしていた。
「どうして整形だってわかるの?」
と土岐は聞いた。土岐の眼にはただ鼻が少し高くて、その鼻筋が通っていて顎が少し尖っていて多少化粧が濃い目としか映らなかった。
「鼻が高すぎると思わない?」
と亜衣子が同意を求めるように言う。
「日本人としては少し高いかも」
と土岐は白雪姫の美貌に見とれていた。
「でも、あの肌の白さは本物でしょ?色白も整形できるの?」
「できないこともないけど、ファンデーションで十分でしょ?」
「まさか、舞妓さんだって、手まではドーランを塗らないでしょ?」と土岐は白雪姫の雪のように白い手を指摘した。
「ランチにしない?」
と亜衣子が土岐が白雪姫に目を奪われていることの不快さに耐えかねて話題を変えてきた。ガラガラのアトラクションから出てトゥーンタウンでレストランに入って食事している間も話しをしながら辺りを注意深く見回していた。土岐は聞かずにはいられなかった。
「きょろきょろしてるけど何か?」
「私のニックネーム知ってる!」
「知るわけないでしょ」
「私は研究所ではビデオ・アイ子って呼ばれてるの。私の目はビデオなの。一度見たものは再生できるの。とくに人の顔や体つきや仕草や動作は百パーセント再生可能なの」
「へーっ!事件現場にいたら便利だね。完璧な目撃証人になれる」
「そうなの。これが私の子供のころからの唯一の特技。だから、本当は刑事になりたかったんだけど。それで警察に入ったんだけど」
「刑事になったからって、事件そのものを目撃できるわけじゃないでしょ。事件後の現場は本物のビデオで十分でしょ」
「そうなのよね。それが問題なのよ。地域係以外この特技を生かせないのよ!私、ダンボみたいに耳も動かせるんだけど私の特技って役に立たないものばかり」
「接客業には向いてるんじゃ。人の顔を一発で覚えられるんでしょ」
「でも名前は別なの。ビジュアルだけなのよね」
「なんだ。見たことがあるだけじゃキャバクラ嬢も無理だな」

4 ディテクティブ南條 

 月曜日の昼食も同じ三人で、同じイタリアン・レストランだった。
「昨日の転落事故どう思う?」
と深野が訳もなく快活に聞いてきた。