と高圧的な尋問口調が返ってきた。男は胡散臭そうな険のある目つきで土岐を見上げた。くたびれたダッフルコートの土岐の先端の剥がれ掛けた革靴の足元から寝癖の取れていない頭髪迄、首を少し突き出して舐め上げるように見る。男は面会受付リストのA4用紙を気だるく突き出した。無言で必要事項の記入を求めてきた。土岐はインクのなくなりかけた黒いボールペンで空欄の一番上に記入した。
 天井は3メーター近く。1本だけの二〇ワットの蛍光灯が2メーター間隔で並んでいた。両端の黒ずんだ蛍光灯が一本、間歇的に点滅していた。床はくすんだ護摩斑の大理石。小さな穴が所々に散見された。統計資料室という黒地に白字の小さな看板が頭頂の高さで廊下に突き出ていた。浅黄色の分厚い木製のドアを軽くノックした。招じ入れる声を確認せずに開けた。部屋の中は衝立代わりの濃い鼠色のスチールの書架で見渡せなかった。書架の左は白壁、手前に円筒形の傘立。右手の方に部屋が広がっていた。奥に少し入って行く。カウンター代わりの低い書類棚、その向こうに二十代半ばの女が事務机に向かっていた。土岐の気配に気づいている。顔を上げなかった。土岐が声を掛けると目鼻立ちのはっきりした無表情な瓜実顔が彼を怪訝そうに見上げた。頓狂な顔をしている。三秒の間があった。「少々お待ち下さい」