祭りのあと

「いま忙しいんで、今夜にでも、ゆっくり説明すっから」
と言い捨てて南條は墨田署裏の駐車場から赤い軽自動車に乗った。浅草ビューホテルに向かった。十分程で着いた。ホテルの前に土岐の姿は見えなかった。南條は国際通りの反対側に車を止めると横断歩道を渡った。ホテルロビーに入ろうとしたところで土岐が出てきた。
 土岐は黒いショルダーバッグを肩から提げていた。
「お前は今日から、俺の定年の日迄、俺の私設助手だ」
「小谷署や舞浜署から呼び出されるかも知れないので、よろしく」
「これから舞浜署だ。こっちから行ってやれば面倒はないだろう」
「私物を取り戻さないと、着たきりすずめです」
 二人は南條の赤い軽自動車で舞浜署に向かった。三十分程で舞浜署についた。担当の刑事は高橋と言った。骨太の痩身で三十前後のリーゼントの刑事だった。舞浜署には既に奈津子の死体遺棄と尊広の水死についての小谷署との合同捜査本部が設置されていた。墨田署長からの申し入れがあり、南條はメンバーからはずされていた。そこで高橋が陪席を求めてきた。陪席の場合、意見を求められれば発言できるが、そうでなければ黙っていなければならない。南條は高橋に捜査会議の資料の提供のみを求め、陪席を断った。
「会議に出てもらえないですかね」
と高橋は南條に哀訴した。
「老兵は死なず。去るのみだ。未練がましいんでここにいる。聞きたいことがあればなんでも答える。今更口を挟んでもしょうがない」
「本部長にそのように伝えます」
と高橋は未練ありげに小さく会釈して会議室に去った。南條と土岐は舞浜署の一階玄関脇のベンチで捜査会議終了を待った。南條は軽いいびきをかいて居眠りを始めた。土岐は手持ち無沙汰をまぎらわすために携帯電話でゲームに熱中した。
 十時を回った頃、高橋が南條の前に現れた。
「申しわけない。南條さんを会議に入れるなという墨田署長の意図がよくわからないです」
「本来なら署内謹慎の身分だからこうして外出を黙認してくれただけでありがたい。署長もメンバーにねじ込みたかったようだが立場があるからね。若いワリにはよくできた御仁だ。キャリアの星だよ」
「これが捜査資料で。南條さんのコピーをもらってきました」
 奈津子と信夫と尊広の司法解剖の結果が調査報告書になっていた。高橋は報告書をめくりながら南條に説明した。土岐は傍聴していた。