と言ってジャケットのボタンを全部はずしてシートベルトを締めた。CDL迄はカーナビの指示通りで駐車場迄は問題はなかった。車中ではもっぱら例の仮説のことが話題になった。土岐はそういう気分ではなかったが亜衣子の無邪気な熱弁に付き合うかたちになった。CDLの駐車場は小春日和のような陽気の日曜とあって少し混雑していた。ゲート近くの駐車場に止めることができなかった。一寸ずりを繰り返しながら駐車場ビルの最上階の一番奥に駐車せざるを得なかった。入場券売り場は黒山の人だかりだった。アベックと親子連れが圧倒的に多い。入場券は成り行きで土岐が買うことになった。チケット売り場寄りの扇型の放射状のゲートを通過したあと亜衣子がチケットを土岐に手渡した。
「捨てちゃだめよ。経費で落ちるから」
 土岐は意味もなく笑った。二人は手をつなぐでもなく、肩を寄せるでもなく、つかず離れずぶらぶらとそぞろ歩いた。人気のあるアトラクションの入口はどこも長蛇の列だった。それを見ながら二人でうんざりしたような顔を見合わせた。
「並んでみる?」
と義務のように先に声をかけたのは土岐だった。
「乗るのが目的じゃないでしょ」
と亜衣子が胡散臭そうな目つきで土岐を見た。冬の陽光がまぶしくて、そういう目付きになっている。
「じゃあ、どうするの?」
と土岐は開き直ってけだるく聞いてみた。
「女の子を見るのよ。とくに、無表情な女の子に注意して。そういう子がいたら、次に連れ添いの大人や兄弟姉妹を観察して」
と言う亜衣子の話を聞きながら、
「さすが婦警さんだ」
と土岐は聞こえるようにつぶやいた。亜衣子は何の反応も示さなかった。二人は幼児向けのアトラクションの白雪姫と七人の小人に並んだ。行列の短いものは幼児向けに限られていた。付き添いの大人達は一様に疲れ切ってあくびをしたりつまらなそうな顔をしていた。
「幼女の場合は事故死が多かったんだっけ?」
「そうだったみたい。ただ少女の場合も原因不明の自殺なら、ひょっとして事故死かもね。転落したのか、飛び降りたのか」
 土岐がうつむき加減で考え込んでいると、亜衣子が彼の顔を心配そうに覗き込んできた。
「あの白雪姫、整形だと思わない?」