祭りのあと

と携帯電話を切ると、その指で南條は小関に間もなく大阪府警に到着すると連絡を入れた。大阪府警に着くと、南條は署内電話で連絡を取って取調室に向かった。長田浪江は還暦をとうに越えていたが老婆には見えなかった。浅黒い地肌を隠すように白いファンデーションを分厚く塗っていた。若い頃の端正な美貌を彷彿とさせていた。尋問室の隣のマジックミラーで南條と土岐は尋問の様子を窺った。一目で土岐は浪江が素人ではないと直感した。机からはみ出すように足を組んでいた。南條は土岐をその場に残して尋問室に入った。浪江は腕組みをして憮然とした表情で入ってきた南條を見上げた。アイボリーのニットジャケットの袖から覗いている手首は筋張っていて、二の腕に力を入れれば力瘤ができそうな感じだった。小関は壁に立て掛けてあったパイプ椅子を開いて自分と浪江の間に置いた。
「今度はあんたかい。入れ替り立ち代り」
と浪江は傍らの小関刑事を見ながら南條をあごで斜にしゃくりあげながら低い声でふてぶてしく言った。部屋の中央の小さな灰白色の事務机を3人で囲む形になった。
「いい加減で、帰してもらいたいもんだ。人権蹂躙もはなはだしいね」 
 南條は浪江の顔をまじまじと見つめながら誰かに似ていると思った。くっきりとした二重で、大きい瞳。一円札の二宮尊徳だ。
「息子さんが亡くなったというのにご足労です。聞きたいことを言ってもらえれば」
と南條は中立的な態度で浪江に接した。
「何を言わせたいんだい。いい加減にしないと損害賠償を請求するよ」
とふて腐れる浪江の言葉に関西訛りはなかった。
「まあ、まあ。聞きたいのは息子の長田尊広のやっていたことだ」
「やっていたこと?ただの写真屋」
と浪江は吐き捨てるように言う。
「それは分かっている。裏稼業の方だ」
「裏も表もありゃしないよ」
と浪江はいらだたしそうに言う。
「永山奈津子は知ってるね?」
「永山?知らないね、そんな女」
「じゃ、尊広はなんで死んだんだ」
「こっちが聞きたいくらいだ」
 小関が同情を求めるように南條の顔を見た。南條は小関にうなずいて見せた。ついでにマジックミラーの向こうの土岐にも目線を向けた。
「これは尊広の預金通帳の写しだ。あっちこっちの銀行の残高を寄せ集めると五八〇〇万になる。あんな場末の客もろくに来ないような写真館でこんな大金がどうして稼げるんだ」
と小関が尋問を続けた。