祭りのあと

「鑑識にお願いしたときは事件化していなかった。署内での俺の立場が軽いんで鑑識も後回しにしたようだ。一昨日せっついといたから今頃必死になってやっているところだろうと思うが要はどこで作ったかが分かれば糸口になる。焼き物だから何とかつきとめられるだろう」と南條が嘆息した。そこに朝食が運ばれてきた。宿の主人は隣の部屋に料理を並べ始めた。三人の布団はまだ敷いたままだ。布団をそのままにして三人は隣の部屋に移動した。石油ストーブに火がついていた。輻射熱の当たらない体の面はぞくぞくしていた。朝食をとろうした南條が大阪府警の小関刑事から携帯電話に連絡を受けた。
「尊広の母親と女房に任意同行を求めました。尊広の奈津子の死体遺棄容疑の件で自宅のガサ入れをやります。昼頃迄に来られて立ち会ってもらえませんか」
という小関の要請だった。その要請に快諾の返事をして朝食の膳に向かい直すと再び墨田署の斎藤から連絡があった。
「モルヒネ?どの程度の?よし、分かった。俺はこれから大阪に向かうんで、舞浜の方はよろしく」
と答えて箸を止めて考え込む南條に土岐が質問した。
「モルヒネがどうかしたんですか?」
「海水を余り飲んでなかった。簡易検査でモルヒネが検出された」
「海水をあまり飲んでいなかったというのはどういうことですか?」
「BMWで海に飛び込む前に既に虫の息だったということだ」
「じゃあ長田も殺されたということですか?」
と亜衣子がごはん茶碗を持ったまま浴衣の腰を少し浮かせた。
「まだ分からん。いきも絶え絶えでBMWのアクセルを海に向かって
ふかしたのか、それとも誰かにほとんど殺されかけた状態でBMWも
ろとも海に落とされたのか、もう少し詳しい情報が追ってあるだろう」
と言い終えると、南條は味噌汁に入れたご飯をかき込んで朝食を切り
上げた。そのまま洗面もせず、ひげもそらずに土岐とともに朝一番の村営バスに飛び乗った。亜衣子には、
「小谷署に寄ってみなさんによろしくと伝えてくれ。事情聴取は後日。俺たちはこれから大阪府警に行く。俺の軽はよかったら墨田署迄乗って行ってくれ」

18 黒妖婆浪江