祭りのあと

「ということは奈津子は女子高生の溺死を事前に防ごうとしたか、あるいは、長田の逮捕を望んでいたということだ」
「でも、長田が逮捕されたら、自分も容疑を掛けられるでしょ。それに、長田の逮捕を望んでいたのであれば、女子高生が転落したという通報ではなくて、長田が犯人だ、という通報じゃないですか?」
と言いながら、目を半分閉じて、土岐は両手で頭を掻いている。
「警察が嗅ぎ付けたように見せかけて長田を警戒させ、できればそれ以降の犯行を断念させるのが目的だったのか。かりに逮捕されたとしても長田が奈津子のことは自白しないと期待していたか、あるいは自白したとしても自分は実行犯ではないからその程度の有罪は覚悟していたのか。でも息子がいるからな。これ迄のことは長田に脅されていたと自供するか。それで執行猶予を狙うか。父親の犯行を幇助したことについては証拠もないことだし、シラをきるか。あく迄も、主犯は長田にして、自分は強迫されていたと主張する」
「都営住宅に落ちていたバッジは奈津子さんがわざと落とした。同じバッジを長田につけさせて土岐さんにみせるようにした」
と亜衣子がねぼけ声で言いながら大きなあくびを繰り返した。
「そう言えば初めて長田に会ったとき、彼女は自分の車の調子がよくないから運転手を頼んだ、と言ってましたが、あれは、わざわざ例のバッジをつけさせて、僕に見せるためだったのかも知れないですね。だけど前にも言ったと思うんですが、僕が南條刑事からあのバッジの情報を得ていたということを彼女はどうして知ったんでしょうか?」
「そうか、そうであれば、その推理は成立しねえな」
「都営住宅に落ちてたバッジですが裏のねじ止め部分が欠けていましたよね。あの壊れ方からすると、ねじり取られた感じがするんですが」
 亜衣子が掛け布団の上に正座し居住まいを正して割り込んできた。
「敬子さんが突き落とされる瞬間に長田の襟穴のバッジにしがみついて、そのとき壊れたか、奈津子さんが8階の非常階段から投げ捨てて地面に落ちた時に破損したとも考えられないかしら?」
「鑑識の結果が出れば、いずれはっきりするだろう」
と南條はその話を興味なさそうに打ち切った。そう言われて亜衣子は腕組みをして、ささくれ立った畳に目を落とした。
「鑑識は何をやってるんですか?」
と土岐が浴衣を脱いで、上半身を着替えながら南條を責め立てた。