祭りのあと

と言いながら南條が傍らを見ると亜衣子が産毛の逆立っているうなじをむき出しにしてうなだれて居眠りを始めた。軽い寝息が聞こえる。土岐が亜衣子のなだらかな肩を揺すった。亜衣子はびっくりしたように目を開け、一瞬どこにいるのか分からないような目の焦点の合わない表情をした。思い出したように、南條に聞いた。
「土岐さんはどんな罪になるんですか?」
「調書は取られると思うが今回の事件の解明のそもそものきっかけを作った功績が大きいから立件せずということだろう。情状酌量てえことだ。所詮、法律を作ったのも人間だし、法律を運用するのも人間だ」
「大丈夫よ。良かったわね、土岐さん」
と亜衣子が寝ぼけまなこで秋波を送った。土岐は重要なことを思い出したように南條に質した。
「奈津子の子供の父親は誰なんですか?長田ではないようですが」
「それは本人しか知らないとは思うが、噂では父親らしいという話もある。近親相姦だ。周囲の話では奈津子は父親に溺愛されていた。いわば犯罪一家だから秘密漏洩のため奈津子は結婚もできなかった。母親が早くになくなったのも、その心労だったんじゃないかな。調書に必要な情報になれば、DNA鑑定をしなければならないだろう」
「もう寝ません?ここで寝ていいかしら?」
と亜衣子は土岐に媚びるように浴衣がはだけそうな膝を崩す。
「隣に部屋があるよ」
「この旅館の部屋は廊下からいきなり障子戸でしかも鍵がない。それに隣の部屋だって襖一枚でしょ。三人一緒に寝た方が安全だと思うの」
 南條が高笑いする。土岐は南條の推理にすっきりしないものを感じていた。事件全体が深い霧に覆われている。その夜三人は同じ部屋に湿っぽい煎餅布団を電気コタツを中心にして並べた。土岐と亜衣子が並んで南條はその二人の頭の先に横たわった。南條の鼾が凄まじかった。若い二人は疲労困憊していて気にならなかった。
 翌朝、三人が目覚めたのは南條の携帯電話の着信音だった。固定電話に良く似た呼び出し音が早く起きろとばかりに鳴り続けた。南條は目を閉じたまま枕元をまさぐったが携帯電話は鳴りやまなかった。仕方なく、しょぼしょぼした目を開けて探すと枕の下にあった。南條が横になったまま受信した。