祭りのあと

 小谷署から開放されたのは深夜だった。三人で再び小谷温泉に引き返すことにした。小谷署の当直が温泉宿に電話を入れてくれた。レンタカーは証拠物件として小谷署内で保管することになった。途中、永山奈津子を投擲しようとした現場を軽自動車で通り過ぎたが何事もなかったかのように綺麗に片付いていた。助手席の土岐は肩を落として、南條の軽自動車の動きに揺られながら前を向いたまま後部座席の亜衣子に勇気を出して訊ねた。
「どうしてここにきたの?」
「だって刑事さんがどうしても一緒に来てくれって言うから」
「昨日のこと?」
と言う土岐のため息混じりの言葉は疲れきっていた。
「ううん、けさ、いきなり。でも、あなたのことは、前から聞いていたの。『土岐のばかは、変なことになっている』って。それで、引越しのとき千住に押しかけたんだけど、あなた、何も言わなかったし。刑事さんが大げさに言っているだけなのかと思っていたの」
「一緒に来て何をしていたの?」
と土岐は搾り出すようにして聞く。
「ずっと、携帯電話のGPSで、あなたの現在位置を確認しながら、追いかけてきたの。いうなれば、携帯電話助手ということかしら」
「でも、よく研究所を抜けられたね」
「事情を説明して。刑事さんにも口ぞえをしてもらって。なんか長年の夢が叶ったみたいで今日は一日中わくわくしていたのよ。あなたはとっても大変だったみたいだけど」
と亜衣子はバックミラーの中で土岐と目線を交わした。一人だけ嬉しそうな思いを押し殺していた。土岐は永山奈津子の死のショックからまだ抜けきれずにいた。

17 小谷温泉の推理

 小谷署から小谷温泉迄三十分もかからなかった。三人は三軒あるう
ちで一番ひなびた旅館に泊まった。南條が一番安い旅館の紹介を小谷
署員にお願いして予約してくれた旅館だ。全館こげ茶の古い板塀で、
真っ暗なバス通りから玄関前迄の道が舗装されていなかった。玄関先
には埃だらけの白熱灯が数匹の羽虫を集めていた。旅館は木造の三階
建てで天井が低く、せまい廊下が波打ち少し傾いていた。入道のよう
な旅館の主人に誘導されて三人は歩くと軋むテカテカの階段を上って
すぐの二階の部屋に通された。廊下の障子を開けると、次の間がなく、
いきなり畳が少しささくれだった八畳敷きの部屋になっていた。早速、
三人は吹き抜けで天井は高いものの狭く薄暗い風呂に入った。男女の