祭りのあと

と少し訛りのある間延びした発音で土岐に要請した。土岐は運転席に座りなおし、ヒューズボックスの下のレバーを引いてトランクの錠を解いた。もう一人の頬の蒼い警官がトランクを大きく上げて中を懐中電灯で照らした。その懐中電灯でドアウインドウを軽くノックする。
「出てもらえますか?」
と警官に促されて土岐はレンタカーの外に出て後ろのトランクに回り込んだ。待っていた警官が質問してきた。
「長野県警の者です。職務質問します。この緑色の袋はなんですか?」
「ある人から、捨てるように頼まれたもので中身は何か知りません」と土岐が答えると、傍らで腕組をしていた南條が小さくうなずいた。
「この袋開けていいですか?」
と警官が南條と土岐の顔を交互に見た。土岐が応じると南條が首を泥鰌のように突っ込んできた。警官は袋のジッパーを押し下げた。半透明の樹脂ファスナーが左右に分かれてゆく。その内部を警官の懐中電灯の明かりが揺れながら照らし出す。その警官が小さく、強く叫んだ。
 土岐は後頭部に意識を集中させ死を覚悟した。目を閉じた。コンソールボックスの携帯電話の中に長田の耳が入っているような錯覚をおぼえた。警官の叫びを聞きつけてパトカー後部座席にいた亜衣子が好奇心に耐えられなくなって外に出てきた。アイボリーのライナーつきジャケットの下にネイビーカラーの厚手のフレアチュニックをまとい、インディゴのスキニーデニムをはいている。警官が袋の中のばらけた腐植土を掻き分けると眠れる森の美女が現れた。その後ろから亜衣子が爪先立ちで覗き込んだ。白蝋のような喉元に鬱血したような褐色の痣が二つあった。腐植土の中に垣間見えた白蝋のような死に顔を覗き込んだ土岐は膝から力が抜けてその場にへなへなとしゃがみこんだ。体中がわなわなと震えて止めようとしても止まらなかった。亜衣子が土岐と入れ替わってトランクの前に立った。土岐には亜衣子がここにいる理由を問いただす気力も失せていた。
「永山奈津子じゃないか!」
と南條が大声で叫んだ。土岐に見せまいとしたが、その必要はなかった。土岐はレンタカーのリアドアにもたれかかり後頭部を両手で押さえ、息を荒げてかがみこんでいた。足の裏から地面の冷気、背中からは車体の冷気が土岐に伝わった。
「長田の身柄確保だ」
と南條は携帯で墨田署に連絡した。かすれかけただみ声が弾んでいた。