「仮説を検証しよう。祭りの後不明仮説と1年のタイムラグの前提が正しいとすれば二〇〇一年以前の自殺率一位は不明以外でそれ以降の一位は不明ということだ」
と土岐が言い終わらないうちに亜衣子は自分のパソコンで警察庁のデータベースにアクセスした。大府、京府、兵県、和歌県、奈県、滋県の自殺原因を閲覧し、しばらくの間、亜衣子は画面に釘付けになった。土岐も手元を休めて亜衣子のパソコンの画面に見入った。
「とりあえずデータベースをまとめて。あとは原因解明だ」
 残された午後の時間は、発見した事実の表整理に追われた。単年のクロスセクション比較は棒グラフで描いた。経年のタイムシリーズ比較は折れ線グラフに統一してまとめることにした。終業時刻迄には図表はほぼ完成した。あとは、解説文の書き込みだが、肝心の原因がさっぱり見当がつかなかった。
「お祭りのあと未成年女子の原因不明の自殺や事故死が増加する」と土岐は出来上がった図表を何度もスクロールしながらパソコンの画面につぶやきかけた。
「しかも現在進行形だ」
と言いながらキーを叩く土岐の肩に深野が毛深い手を置いた。
「どう仮説検証の結果は?さっき原因不明の自殺とか言ってたけど、これは要注意だよ。原因不明の自殺は事故死の場合もあるからね。事故死の場合は原因を徹底的に究明し、そうならない対策を生活安全の側面からコメントしなければならないけど自殺の場合は本人が世をはかなんだわけだから、心の問題であって警察の問題ではない。心理カウンセリングの問題だ。警察の処理は簡単だ。警察の担当者が面倒くさがって簡単に処理するために原因をでっちあげることも多いからね。話は違うが保険金が絡んでいると自殺と事故死とじゃ大違いだ。契約して一年以内に自殺した場合は自殺免責になって契約書に従って保険会社は支払いをしない。最近は自殺免責を2年から3年に延ばしている契約書もある。若い人の場合は保険金がかけられていても巨額ではないから雑誌ネタにはならないだろうが」
と言う深野の声が遠ざかった。土岐が振返ると帰り支度をしていた。

3 ビデオEYE
 
 土曜の朝、土岐は亜衣子にeメールを送信した。
@時間がありましたらCDLのフィールドワークにご協力願えないでしょうか?土曜は夕方、日曜は何時からでも結構です@