「ファンド全体からすれば、たいした金額ではない。元々は第二次世界大戦でナチスによって虐殺されたユダヤ人の預金だ。一九三三年からドイツは経済活動からユダヤ人を排斥し始めた。アーリヤ人以外の公務員は解雇された。ユダヤ人の会社は解散させられたか非ユダヤ人の経営する会社に廉価で売却された。ユダヤ人の貯蓄や利益は特別課税の対象となった。ゲシュタポによってアウシュビッツの強制収容所に送られる直前に多くの金持ちのユダヤ人が永世中立国のスイスの銀行に全財産を預金した。その集金に協力したのが我々の仲間だ。巨額の預金を集めたがユダヤ人は家族もろとも虐殺された。相続人がいなくなった。遠い親戚をさがせばいたんだろうけど、そういう親戚もスイスの銀行に膨大な財産を預金したことは知らない。銀行もわざわざ相続人を探すということはしなかった。相続の可能性のある人々は財産はナチスに没収されたと思っていた。いずれにしても第二次世界大戦中のスイスを除くヨーロッパは大混乱だった。日本の銀行や郵便貯金や生命保険も同じようなことをやってる。身寄りのない老人が預金残高や生命保険契約を残して死んでも銀行も保険会社も郵便局も相続人を探すということはしない。かれらは請求されない限り支払う義務はないと言い張っている」
と長田はブラックコーヒーをすすった。右手に火のついた煙草がはさまれている。一服吸うと乾いた口腔を湿らすようにコーヒーを口に含む。それを繰り返す。
と長田はブラックコーヒーをすすった。右手に火のついた煙草がはさまれている。一服吸うと乾いた口腔を湿らすようにコーヒーを口に含む。それを繰り返す。


