七一年の関西地区の未成年女子の自殺原因のデータを警察庁のデータベースにアクセスして探していると亜衣子の机の上に郵便物の束がドサッと置かれた。持ってきたのは受付の無愛想な初老の男だった。亜衣子はそれを見て自分の机の方に戻って行った。
 土岐がデータベースをざっと見ると恋愛、進学、友人関係、家庭、病気、学業などの自殺原因が書かれていた。一番多いのは、
〈不明〉
だった。七〇年と七二年についても調べてみた。
「どういうことだ」
とデータベースを閲覧して思わず声を殺して叫んだ。亜衣子の視線を感じた。亜衣子は郵便物を各所員に配達し始めていた。
 土岐が叫んだのは七〇年と七二年の自殺理由に不明に分類されている件数が殆どなかったからだ。資料作成を後回しにして、土岐は八四年以降の東京と千葉の自殺原因のデータベースも閲覧した。見ながら心臓の鼓動が高まって行くのを感じた。自殺原因の第1位は〈不明〉だ。八三年以前のデータベースにアクセスしながら指先が震えるのを抑制できなかった。結果は脳の血流を更に増幅させた。首筋がずきずきした。八三年以前の自殺原因で〈不明〉はどの年も最下位だった。脈拍がこめかみを叩いているの感じた。
 亜衣子が土岐の隣に自分の椅子を引きずってきて腰掛けた。土岐が気付いていないようなので声を掛け、
「どうしたの?何か発見?」
 土岐は得意げに言った。
「祭りのあと不明仮説だ」
「なにそれ?」
と亜衣子はつんとした鼻先を少し上方に突き出した。土岐は横目で亜衣子の横顔をのぞき見ながら、
「祭りの後に自殺が増えるが原因はできたじゃなくて不明だ。八四年って何の年だ?」
「万博みたいなお祭りは記憶にないわ」
「僕は良く覚えてる。幼稚園の年少組だったけど、クラスの友達に自慢されたのが悔しくて悔しくて初めて親を呪ったよ」
「早く言いなさいよ」
と亜衣子がテーブルをこつんと叩いた。
「CDLだ。一九八三年に開園した。君のさっきのタイムラグ仮説が正しいとするとそれから1年後に影響が出てくる。しかもお祭りはまだ続いている。一九八三年には最下位だった不明の自殺原因が、一九八四年以降、ずっと第1位だ」
「すると、WSJは二〇〇一年に始まったから」
と言う亜衣子の言葉尻を土岐が奪った。