祭りのあと

「腐植土とガムテープが」
「分からないね。何でそんなものをいれて捨てなきゃならないの?」
「何となく」
としか土岐には言いようがなかった。土岐は長田に盗聴されていることを前提に警官の質問に慎重に答えていった。いずれ寝袋が見つかれば全てが明らかになる。それ迄1秒でも長く生き延びることを考えた。虚しい悪あがきだが自然にそうしていた。無意識だった。そこにレスキュー隊が特殊救急車で到着した。長いロープを抱えた赤茶色のつなぎと白いヘルメットで身を固めた隊員が二人、ガードレールと交通標識の柱に夫々ロープを結びヘッドライトをかぶり掛け声をかけながら崖下に下りていった。道路の上からはハロゲン投光車両からサーチライトが照射され警官が崖下を覗き込むように、
「右だ、左だ」
と怒鳴っている。南條も崖下を覗き込んでいる。やがて崖下から、
「白か?」
という少し間延びした隊員の声が微かに聞こえてきた。パトカーの後部座席に土岐と一緒に座っている警官が咎めるように聞いてきた。
「投げ捨てた寝袋は白か?」
「はい」
と土岐が答えるとその警官は窓から斜めに首を出して、
「そう!白い寝袋」
と怒鳴り返した。携帯受令機のマイクを通して崖下から声がした。
「よしガードレールの方のロープを引き上げてくれ!」
 その声で、土岐を職務質問していたほぼ同年輩の警官がパトカーの外に出た。南條が土岐の顔色をのぞき込むようにして代わりにパトカーに乗り込んできた。若い警官が二人で、声を合わせて、ロープを引き上げていた。崖下に下りていた隊員は交通標識の柱に結んだロープ伝いに、一人ずつ自力で駆け上がるようによじ登ってきた。
「犯人を立合わせてくれ」
と南條がパトカーの外に出ながら叫んだ。土岐は南條に促されて引き上げられた寝袋の前に行った。
「ご丁寧にガムテープをぐるぐるまきにして」
と言いながら南條がサーチライトに照らし出された寝袋に巻かれたガムテープを剥がし始めた。それを若い警官が制止した。
「それはこちらでやりますので」
「つまらない縄張り意識を出すんじゃないよ。そんなことを言っているから初動捜査が後手後手になるんじゃないか」
と南條は気色ばんだ。警官が南條を寝袋から強引に引き離した。