この状況が分かれば長田は起爆装置のスイッチを入れるに違いない。万事休した。それだけの思いが一瞬のうちに脳裏を駆け巡った。土岐は身動きができなくなった。頭の中が真っ白になった。心臓の鼓動が早まる一方で後頭部から血の気が引いていくのが分かった。体が硬直し、ハンドルを握っている手がほどけなかった。かろうじて解いた右手でポケットにあった携帯電話をコンソールボックスにしまった。盗聴装置を音源から少しでも遠ざけて長田の起爆装置のスイッチを押させまいとする試みだった。南條が近づいてきた。
「御無沙汰だね。暫く逢わないうちに奴らの仲間になっちまたな。ミイラとりがミイラになるとは。永山奈津子の色香に血迷ったか。いま県警を呼んだから覚悟しな。俺が目撃者だ」
と南條が凄んできた。安禄山でビールを共に呑んだときに見せた人懐っこい表情が消えていた。ドアウインドウを閉めたままでもよく通るだみ声だった。耳を澄ますと下の方から谷に木魂すようなサイレンの音が上ってきた。軽自動車の前に仁王立ちになっている南條とレンタカーの中で縮こまっている土岐が対峙しているところに麓の方から山梨県警のパトカーが到着した。地域係の制服の警官が二名、南條の脇に出て話をしている。南條は交通標識の柱のマジックを指差して説明している。
「これはただのいたずら書きではない。テロルの暗号だ。この下の木の枝が生爪を剥がしたように折れてるだろ。ここから女の子の死体を遺棄したんだ。ちょっと懐中電灯を」
と言う南條の傍らに懐中電灯を持った若い警官が立った。
「ちょっと見えません、崖がえぐれてるんで。明日の朝にしたら」と若い警官が甲州訛りで戸惑いがちに言う。南條はどういう名目で土岐を拘束するか考えていた。不法投棄の現行犯なら無難だが南條は土岐が投棄した現場を実際は目撃していない。
「とりあえず、不法投棄の現行犯で緊急逮捕します。レスキュー隊の応援を願えませんか?」
と南條は若い警官に懇願した。
「大ごとになりますね。投棄したのが人間だというのは本当なんですか?本当なら遺棄致死傷ですね」
と若い警官は当惑気味に言う。
「犯人にここで尋問してみましょう」
「御無沙汰だね。暫く逢わないうちに奴らの仲間になっちまたな。ミイラとりがミイラになるとは。永山奈津子の色香に血迷ったか。いま県警を呼んだから覚悟しな。俺が目撃者だ」
と南條が凄んできた。安禄山でビールを共に呑んだときに見せた人懐っこい表情が消えていた。ドアウインドウを閉めたままでもよく通るだみ声だった。耳を澄ますと下の方から谷に木魂すようなサイレンの音が上ってきた。軽自動車の前に仁王立ちになっている南條とレンタカーの中で縮こまっている土岐が対峙しているところに麓の方から山梨県警のパトカーが到着した。地域係の制服の警官が二名、南條の脇に出て話をしている。南條は交通標識の柱のマジックを指差して説明している。
「これはただのいたずら書きではない。テロルの暗号だ。この下の木の枝が生爪を剥がしたように折れてるだろ。ここから女の子の死体を遺棄したんだ。ちょっと懐中電灯を」
と言う南條の傍らに懐中電灯を持った若い警官が立った。
「ちょっと見えません、崖がえぐれてるんで。明日の朝にしたら」と若い警官が甲州訛りで戸惑いがちに言う。南條はどういう名目で土岐を拘束するか考えていた。不法投棄の現行犯なら無難だが南條は土岐が投棄した現場を実際は目撃していない。
「とりあえず、不法投棄の現行犯で緊急逮捕します。レスキュー隊の応援を願えませんか?」
と南條は若い警官に懇願した。
「大ごとになりますね。投棄したのが人間だというのは本当なんですか?本当なら遺棄致死傷ですね」
と若い警官は当惑気味に言う。
「犯人にここで尋問してみましょう」


