祭りのあと

というナビゲーターの音声にスピードをゆるめた。かなり急な曲がり角に警笛鳴らせというブルーに白絵の交通標識が見えた。車を崖側の路肩に停めて白い柱を確認すると濃い墨汁で書かれたメソポタミア文字のjが確認できた。あたりに人家も車の気配もなかった。谷の下にも灯りはなかった。軽自動車をかなり引き離したようだ。土岐はトランクをあけた。躊躇する暇もなく寝袋を谷底に投擲した。寝袋が枯れ枝に接触する音がガサガサと暫く続いた。最後にストンという音がした。落下する音が止んだ。寝袋は軽く感じられた。落下してゆく音も野生動物が動き回るような程度で誰かに聞かれた心配はなかった。その音の方向から息苦しそうな軽自動車のエンジン音が聞こえてきた。谷底をのぞき込むとえぐれた崖になっていた。漆黒の枯れ枝の間に軽自動車のヘッドライトが斑に動いていた。
 土岐は車に戻り軽自動車から逃げることを考えた。Uターンして軽自動車とすれ違い、脱兎のごとく逃げ去ることを考えた。その場ではUターンできそうになかった。しかたなくUターンできそうなところ迄、さらに山道を登攀して行くことにした。十分ぐらい走ったところで崖をえぐり取って退避所にした箇所があった。山側には白樺の林が続いていた。そこでKターンして車の方向を反転させた。そのまま、退避所に停車し、後続車の気配をうかがった。ついでに、カーナビに目的地としてレンタカー会社の電話番号を入力した。