祭りのあと

 標高の高い林の中。春近い日差しが上空にあるだけで既に薄暗くなっていた。BMWはゆっくりとUターンして、東京方面に滑らかに走り去った。土岐がレンタカーに戻ってカーナビの画面を見ると目的地迄、あと三十キロという表示になっていた。道はほぼ一本道。迷う心配はなさそうだった。追い越してゆく車もすれ違う自動車も殆どない。スーパー林道は片側一車線。陥没も凸凹もない運転しやすい舗装道路だ。数キロ走ると日が山に落ちた。ヘッドライトをつけた。ブナ林の中をだらだらとした山登りが始まった。つづら折りが続く。暫く走ると今来た道が葉を落とした木々の間から眼下に見える。下の方から同じ道を登ってくる車のライトが枯れ枝の間を点滅しているように見えた。ライトの大きさから軽自動車だ。うねるような道幅が狭くなり、一台通るのがやっとという幅員になった。対向車があるとすれ違うこともできそうになかった。前方の交通に気を配りながら、ゆっくりとレンタカーを走らせた。残り二十キロぐらいになったとき、下の道を走行する後続の軽自動車が崖下にはっきり見えた。どこかで見たことがある赤い軽自動車だ。土岐は一瞬狼狽した。追いつかれないようにという思いが強くなった。アクセルを踏む足に力が込められた。軽自動車もアクセルをふかして追尾してくる。山陰に日が落ちてきた。対向車があればヘッドライトで確認できる。土岐はガードレールや崖をこすりそうになりながらスピードをあげた。後続の軽自動車を確認するゆとりはなかった。カーブを切るたびに、その先の道にヘッドライトが当たらなくなる。カーブを曲がりきる迄盲目状態で運転した。目的地に近づいたとき暮れなずんでいた山間の陽が完全に没した。民家も街路灯もない。ヘッドライトに浮かぶ山林や崖以外は全て闇の中に埋没した。
「まもなく目的地です。案内を終了します」