祭りのあと

 翌朝、微かな後頭部の疼痛で目が覚めた。頭痛が土岐を悪夢のような現実へと引きずり戻した。そんな気分のまま床に置いた液晶テレビのスイッチをいれて、ブランチのカップ麺を食べながらモーニングショーを見ていると玄関のドアをノックする音がした。ジャージ姿のままだったのでそのまま立ってドアノブのところで誰何した。ドアを開けると配達員が小包を持って立っていた。ショルダーバックにしまった印鑑を取り出して押した。差出人を見ると南條だった。分厚い書籍程の大きさだったが軽かった。ドアを閉めてから天井の監視カメラを探すとフローリングのダイニングキッチンと部屋との境の鴨居が遮蔽になっていた。部屋に背を向けて小包のガムテープをはがした。中にはメモ用紙のような手紙と携帯電話が入っていた。
〈携帯電話が盗聴されていると言うので最安値の中古の携帯電話を急遽用意した。電話とメールとGPSだけの機能しかない。連絡をとるのであれば、これで十分だろう。絶対に体から離すな。南條〉
 土岐は南條に電話しようとしたが、自分の携帯電話で盗聴されていることを思い出した。メールなら盗聴されないかと思いなおしてメール文を書こうとしたが、躊躇した。奈津子に言われたとおりに、メールを自分の携帯電話から送信することにした。南條が送ってきた携帯電話は監視カメラに背を向けながらショルダーバックにしまい手紙は破ってアパート生活の垢の詰まったゴミ袋に捨てた。
@南條警部補殿。連絡が遅くなって申し訳ありません。急に就職口が決まりましたので、この件からは足を洗えれば幸いです。土岐@
 送信したあと、このメールを見て、南條が飛んでくるような予感がした。南條が郵送してきた携帯電話で監視カメラに背を向けて、ためしに岩槻先生にもメールを送信してみた。
 @昨日もメールしたように就職が決まり本日引越します。お世話いただいた研究生を一年間だけでやめることご容赦下さい@
 送信してから暫くすると正午前に黄土色の作業着で長田がやってきた。部屋の中の荷物を鋭い眼光で見渡し、
「これなら軽トラでも大丈夫だったな」
と土岐に同意を求めた。窪んだ眼に険があった。
「それじゃ大きい荷物のほうからいこうか。携帯電話をポケットに入れて、そっち側をたのむ」