メールを送信したあと、大事なものを喪ったような寂莫たる思いに囚われた。片付いた部屋の中を見渡して家財道具の少なさにいかにぎりぎりの生活をしてきたかを思い起こした。感慨深いものがあった。ひと休みしているところに亜衣子から電話が掛かってきた。「今日は。能美です。いまどちらかしら?」
「自宅です」
「その後、お元気?浅草か上野でお別れ会でもしませんか」
「ありがとう。でもいま取り込み中で。引越しの荷造りの最中で」
「えっ、いつ引っ越すんですか?」
「明日の午後」
「お手伝いに行きます」
と言う亜衣子の心を土岐は推し量れない。
「手伝いが必要な程、荷物はないんで。それにもうすんじゃったし」「そちらの住所知ってますから。千住大橋ですよね。すぐ行きます」と言ったなり電話が切れた。腕時計を見ると五時を過ぎていた。六時過ぎには千住大橋駅に着くと見当をつけた。シャワーを浴びた。後頭部の痛みは感じられなくなっていた。触るとヒリヒリした。念のため奈津子にもらった絆創膏を取り替えた。シャワーから出てトランクスとTシャツでエアコンの下で液晶テレビを見ながら茫然としていると亜衣子から電話が掛かってきた。
「今駅に着きました」
と言う声に疼くものがあった。
「いや、そこの改札にいて。5分ぐらいで行くから」
と言い切って電話を切った。デニムのストレッチパンツにベージュのジャンパーを羽織り十万円と携帯電話をポケットにねじ込んでアパートを出た。夕風に洗い髪が冷えた。駅に着くと亜衣子はターコイスの格子柄のテーラージャケットにライトグリーンのジーパン姿で改札の近くにミュール履きで居心地悪そうにきょろきょろしながら立っていた。土岐が軽く手を上げると飛ぶように駆け寄ってきた。
「寂しげな駅ね。場末って感じ。都心からそんなに遠くないのに」とまだ夕暮れの駅前を見渡して亜衣子が言った。駅前であるにもかかわらず、広場がなく、商店街もなく、イルミネーションもない。駅の隣には民家がすぐ迫っている。
「まあ、江戸のはずれだからね。千住大橋を渡った先だから、江戸時代は所払いになった土地だ。昔は隅田川の河原だった。小塚原の刑場もすぐそこだし」
と土岐は先に立って交通量の多い日光街道に出た。
「焼肉でいいかな?ひなにはまれな美味しいお店があるんだ」
「自宅です」
「その後、お元気?浅草か上野でお別れ会でもしませんか」
「ありがとう。でもいま取り込み中で。引越しの荷造りの最中で」
「えっ、いつ引っ越すんですか?」
「明日の午後」
「お手伝いに行きます」
と言う亜衣子の心を土岐は推し量れない。
「手伝いが必要な程、荷物はないんで。それにもうすんじゃったし」「そちらの住所知ってますから。千住大橋ですよね。すぐ行きます」と言ったなり電話が切れた。腕時計を見ると五時を過ぎていた。六時過ぎには千住大橋駅に着くと見当をつけた。シャワーを浴びた。後頭部の痛みは感じられなくなっていた。触るとヒリヒリした。念のため奈津子にもらった絆創膏を取り替えた。シャワーから出てトランクスとTシャツでエアコンの下で液晶テレビを見ながら茫然としていると亜衣子から電話が掛かってきた。
「今駅に着きました」
と言う声に疼くものがあった。
「いや、そこの改札にいて。5分ぐらいで行くから」
と言い切って電話を切った。デニムのストレッチパンツにベージュのジャンパーを羽織り十万円と携帯電話をポケットにねじ込んでアパートを出た。夕風に洗い髪が冷えた。駅に着くと亜衣子はターコイスの格子柄のテーラージャケットにライトグリーンのジーパン姿で改札の近くにミュール履きで居心地悪そうにきょろきょろしながら立っていた。土岐が軽く手を上げると飛ぶように駆け寄ってきた。
「寂しげな駅ね。場末って感じ。都心からそんなに遠くないのに」とまだ夕暮れの駅前を見渡して亜衣子が言った。駅前であるにもかかわらず、広場がなく、商店街もなく、イルミネーションもない。駅の隣には民家がすぐ迫っている。
「まあ、江戸のはずれだからね。千住大橋を渡った先だから、江戸時代は所払いになった土地だ。昔は隅田川の河原だった。小塚原の刑場もすぐそこだし」
と土岐は先に立って交通量の多い日光街道に出た。
「焼肉でいいかな?ひなにはまれな美味しいお店があるんだ」


