祭りのあと

「そんなような気もするけど、そうでもないような気もするし、そうであれば覚えてるとは思うんだが昔の話しだし、あまり目立つような先生じゃなかったから。ガキの頃は気づかなかったけど今思えば美人は美人だったな。でもよく見ないと美人だと分からないような控えめな人だった。それより父兄のトラブルに巻き込まれてたのを覚えている。さっきの交通事故死した女の子の母親と林間学校で転落死した父親が兄妹で、何でも二人の母親つまり死んだ女の子のおばあさんが妹の方に金を預けたら、その金をねこばばして死ぬ間際におばあさんが『あの金どうした?』って聞いたら『知らない』ととぼけたもんで、兄妹喧嘩になって、そっちのほうが女の子の事故死より父兄の間では話題になっていた。なんせ当時の金で一千万円だったから。待てよ、ということは事故死した女の子は、いとこ同士で、同じ担任だったということか?ということは、永山先生か」
「林間学校で転落死した女の子の担任は野田先生じゃなかった?」
と古本屋が思い出したように人差し指を立てた。看板屋がうなずく。
「そう言われりゃ、そうかも。野田先生は永山先生より幾分若かったけど二人は仲がよくって、いつも一緒にいたんだよな。あのとき二人は同じ学年を担任していたということか」
「野田先生は誰が見ても美人だった。スタイルが良くって日本人離れしてて肌が少し浅黒くって、大分気の強い先生だったな」
と言う古本屋の店主を残して二人は看板屋を出た。
「迷宮入りした殺人事件の殆どは殺意が明らかでないか通り魔だ」
と呟きながら南條は土岐と一緒に安禄山に向かった。

14 不本意な引越

 土岐は日曜日の一日で、荷造りをした。インターネットで電気と水道とプロバイダーの解約の手続きを済ませた。ついでに、岩槻先生のパソコンに携帯電話から挨拶の電子メールを打った。
@ご無沙汰いたしております。急なことではありますが急遽就職が決まり千住のアパートを引き払うことになりました。後日これ迄のご高恩への御礼かたがた、ご挨拶にうかがわせていただきます@