祭りのあと

「証拠がないんだよな。あの子が帰るといつも何冊か本がなくなっていた。いつもあの子がくると気をつけろと先代に言われてたけど、とうとう尻尾を出さなかった。あの子が亡くなってから万引きが減ったことは確かだった。死んだあと何年かして年子の兄貴がやって来て『妹は毎月、月刊誌を立ち読みしてませんでしたか』と妙なことを聞きに来た。『そういえば大人の月刊誌を発売日に必ず立ち読みしに来ていたことを思い出した』って言ったら『合点がいった』って訳を説明してくれた。父親がその月刊誌を郵送で取り寄せていてその雑誌の数学パズルを家族で解くのが恒例になっていて妹がいつも高得点をとって算数が得意だった兄貴はいつも負けてばかりいた。そのクイズの得点で毎月の小遣いが決まるんで妹より少なかった兄貴は悔しくて仕方がなかったそうだ」
と古本屋が首を縦に振る。その語尾にかぶせるように看板屋が、
「あと林間学校へ行った女の子が山登りで崖から転落したというのもあったな。その子は確か動物の解剖が大好きで蛙やねずみの解剖に飽き足らなくなって山の中で解剖用の小動物を捕まえようとして転落したんじゃないかという噂があった。その時も死亡を確認したのは校医の代役で行っていた永山医院の院長だった」
「そう言えばあったな。事故死といえばこの通りで飛び出して轢かれたというのもあった。今際の際にその女の子が『誰かに押された』って言い残したんで、誰だというのが話題になったこともあったな。そういえばその時もその女の子は永山医院に担ぎ込まれたんだな」
「そうそう、このちかくに病院がなかったから小学校で急患が出て校医の手に負えないときや校医がいない休日や夜なんか永山医院に応援をよく頼んでいた。また院長の永山先生が仏様みたいな人でさ。温厚で。夜中であろうと休みであろうとどんなときでもいなや顔ひとつしなかったな。永山医院が学校から近いこともあったし、ちょっとした怪我でもここの小学生はみんな医務室よりも永山医院のお世話になっていたよな、遊び感覚でサ。お菓子もくれたし女の子なんか一人のときは金を取らなかったこともよくあったらしい」
 そこで土岐が二人の思い出話に割って入った。
「その話は全部、担任の永山先生が関係している?」
という問いに看板屋が先に答えた。