祭りのあと

「警察の捜査とは別に事件性がありそうな場合はこちらで保険金の支払いを遅らせているんですが、契約者から早々に保険金の支払いの催促がありまして。二千万だったと思いますが。どっちにしても掛け金は入金されてこないので、私の営業成績は下がります。掛け金は普通、銀行の口座引き落としなんですが、平野さんの場合は現金払いで毎月入金してもらうのに苦労しました。私の給与は少し減りますがほっとしてます」
「保険について変だと思われるようなことはありませんでした?」
「現金払いが変と言えば変なところで。旦那はなかなか捕まらなかったし向島の工場で捕まえても一二万円の現金すら手元にないことが多くて。仕方がないんで夜、奥さんのスナックにとりに行くことがありました。あそこは日銭商売ですから、とりっぱぐれることはなかったんですが、でも奥さんは契約者じゃないんで、本当はいけないんですよね。去年の秋頃スナックに伺った時、まだ売上がないと言うんで諦めて帰ろうとしたら酒代を先払いしてやろうと言って代わりに払ってくれた酔狂な客がいましたね。関西訛りのある人で」
「四角い濃い顔の男かな?げじげじ眉の」
「さあ、薄暗かったんで。四角いと言われてみればそうだったかも」
 濃い化粧が男好きのする顔を造っていた。かりに事件性があって契約者が犯人となれば会社は保険金を払わないで済むが外務員にとっては月々の掛け金収入が減る分、給与が減ることにかわりはない。どうでもいいという投げやりな態度がうかがえた。目線は向けてはこないものの両耳で南條と五月女の会話を盗み聞きしていた中年男の神経質そうな気配を背中に感じながら土岐はそこを後にした。
 二人は無言のまま曳船駅から半蔵門線、都営大江戸線、東京メトロ東西線を乗り継いで浦安に向かった。駅から浦安市役所迄歩いた。南條が警察手帳を見せて住民票で永山奈津子の転出元の住所を調べた。転入は一九八三年になっていた。
〈日暮里1―16―1〉