祭りのあと

 二人は交差点角のファミレスで日替わりランチを食べたあと曳船駅に向かった。駅前に4階建てのビルがある。保険会社の建物だ。1階が喫茶店で2階から上が貸事務所になっている。保険会社は4階にあった。階段を上り詰めた正面に保険会社の事務室のドアがあった。階段を上りながらどこかで聞いているラジオの1時の時報が聞こえてきた。
 事務所の中は真ん中に6つの事務机が向かい合わせにあるだけだった。窓と反対側の壁の手前に書類ケースがあり法律関係の書籍が二十冊程並んでいた。その他の壁には大きな模造紙が画鋲で留められていた。紙にはマジックで5本の棒グラフが描かれていた。タイトル書きから外務員の保険契約金額の累計であることが分かった。室内には三人。一番奥の机に爪楊枝を口に挟んだ眼光の鋭い中年男、ドアの近くにヨーグルトをスプーンで食べている気だるそうな二十歳代前半の女子事務員、中程の机にカラのコンビニ弁当を前にして口紅を引き直している四十前後の女。
 南條は一番近くの若い事務員に声を掛けた。
「さっき電話した墨田署の南條と申しますが」
 事務員は斜に構えて、きょとんとした眼差しで南條を見上げる。
「都営住宅の転落死した中学生の保険の件で」
と南條が言い添えると反応があった。
「さっきの電話ですね。こちら担当の五月女さん」
と事務員は斜め前の中年女を指差した。中年女は南條の顔を正面から見据えた。中年男から声が掛かった。
「そちらにかけてもらったら?」
 女は椅子から立ち上がり、ドア横にある応接セットに歩いてきた。
二人はソファに導かれた。
「どういうお話で?」
「中学生の生命保険について伺いたいことがありまして」
「たしか、自殺ということでしたよね、警察の方は」
「ええ、今のところその方向で処理しています」
「変更されることがあるということですか」
「まあ、場合によっては」
「事件の場合は契約者が犯人でなければ保険金は支払われます」
と女は煙草をライムのポシェットから取り出して火をつける。シルクのグリーンの花柄のプリントシャツの胸が強調されている。
「契約日はいつですか?」
「ちょうど2年と数日前です」
「ということは、自殺免責ぎりぎりということですか?」
「そうです。審査部の方でも調査してますが」
と女は煙草を持つ手の小指で下唇の下をものほしそうになぞる。