話の内容をよく吟味すると荒唐無稽だが奈津子の肉声を経由するとそれなりの説得力を土岐は感じた。しかし言っていることの意味を十分には咀嚼できなかった。奈津子の声が奈津子のふくよかな肩を経て、そこに密着している土岐の胸に甘く響いた。土岐はひんやりとしたアパートの白壁を背に言い知れない至福を感じていた。
「遺伝子は染色体で親から子に伝えられることは知っているでしょ。染色体は46個あって対をなしていて23対あって形や性質のもとになる染色体が対になって2個のうち1個だけで形や性質が現れる場合を優性。2個ないと出てこない場合を劣性。23対のうち1対だけX染色体とY染色体からできていてX染色体が2個ある場合は女の子、XとYがある場合は男の子。この対が性染色体で、これで遺伝するのを伴性遺伝と言うのよ。精子はX染色体の精子と短いY染色体の精子に分かれる。卵子はX染色体だけ。だから卵子がX染色体の精子を受精すると女の子になって短いY染色体の精子を受精すると男の子になるよ」
と奈津子が潤んだような瞳に天井の五本の蛍光灯の明かりをきらめかせて、斜め下から土岐を見つめ上げる。
「邪悪な遺伝子は色覚異常の遺伝子と同じでX染色体の長い方の腕に乗っている。遺伝子に異常があるとそれが出てくる。異常なものは正常なものに対して劣性だけど、男の子の場合はX染色体が1個しかないので異常が現れる。でも、女の子の場合では、もう1個のX染色体が正常であれば、正常として現れる。この辺が、女の方が男より遺伝的に優位にある理由ね」
と言いながら、目線の定まらない土岐の理解力に不安に感じて、
「何か白い紙はないかしら」
と土岐に求めた。土岐は少し腰を浮かせて机の上から不要なコピー用紙を取ってきて奈津子に渡した。奈津子は机の脇の本棚から統計学の大判の本を取り出し、それをフローリングの上に置き、その上に白紙を置き、そこにボールペンで式を描いた。
「異常なXをもつけれど、外見的には正常な女の子が母親になると、父親が正常でも息子の半数は異常になって、娘の半数が、異常な因子を持つ母親と同じになって、残りの半数が正常の因子だけになる。これが伴性遺伝。学校の理科で習うメンデルの法則そのままね」
「遺伝子は染色体で親から子に伝えられることは知っているでしょ。染色体は46個あって対をなしていて23対あって形や性質のもとになる染色体が対になって2個のうち1個だけで形や性質が現れる場合を優性。2個ないと出てこない場合を劣性。23対のうち1対だけX染色体とY染色体からできていてX染色体が2個ある場合は女の子、XとYがある場合は男の子。この対が性染色体で、これで遺伝するのを伴性遺伝と言うのよ。精子はX染色体の精子と短いY染色体の精子に分かれる。卵子はX染色体だけ。だから卵子がX染色体の精子を受精すると女の子になって短いY染色体の精子を受精すると男の子になるよ」
と奈津子が潤んだような瞳に天井の五本の蛍光灯の明かりをきらめかせて、斜め下から土岐を見つめ上げる。
「邪悪な遺伝子は色覚異常の遺伝子と同じでX染色体の長い方の腕に乗っている。遺伝子に異常があるとそれが出てくる。異常なものは正常なものに対して劣性だけど、男の子の場合はX染色体が1個しかないので異常が現れる。でも、女の子の場合では、もう1個のX染色体が正常であれば、正常として現れる。この辺が、女の方が男より遺伝的に優位にある理由ね」
と言いながら、目線の定まらない土岐の理解力に不安に感じて、
「何か白い紙はないかしら」
と土岐に求めた。土岐は少し腰を浮かせて机の上から不要なコピー用紙を取ってきて奈津子に渡した。奈津子は机の脇の本棚から統計学の大判の本を取り出し、それをフローリングの上に置き、その上に白紙を置き、そこにボールペンで式を描いた。
「異常なXをもつけれど、外見的には正常な女の子が母親になると、父親が正常でも息子の半数は異常になって、娘の半数が、異常な因子を持つ母親と同じになって、残りの半数が正常の因子だけになる。これが伴性遺伝。学校の理科で習うメンデルの法則そのままね」


