祭りのあと

「墨田区の都営住宅の平野敬子の転落死から」
「あれは事故死です」
「何でメソポタミア文字の変なバッジが落ちていたんですか?」
「偶然だと思います。長田があの中学生の携帯電話に転落の暗示をかけていたようです。インフルエンザの病状が進行して行ってタミフルを沢山飲ませたら彼女が自分から転落して彼が駆け寄ったときまだ息があったみたいで最後の力で彼にしがみついてから事切れたみたい。彼女が携帯電話を持ってきたのを確かめて彼女のブログに自殺をほのめかす書き込みをして、そのときにバッジを」
「刑事の話では携帯には本人以外の指紋は残されていなかった」
「どうやって指紋を残さなかったのかは見てないので知りません」
「どうして長田さんは転落死する近くで様子を見てたんですか?」「インフルエンザウイルスにタミフルが有効か見に行っていた」
「平野敬子に直接インフルエンザ菌を感染させたということ?」
「インフルエンザは飛沫感染だからウイルスそのものを吹きかけた。舞浜のクリニックで以前から培養しているのよ。人によって基礎体力が違うから潜伏期間もまちまち。インフルエンザに感染させてタミフルを大量に投与して自分から転落させるやり方は長田が考えたのよ。去年の花火祭りのときの浅草の女子高生の場合もそう。彼女の場合は明石にいたころからインフルエンザ菌を吹きかけていた」
「東京にやってきて、インフルエンザを発症して、花火大会の日に誰にも見られないで、桜橋から隅田川に飛び込んで溺死した?」
「詳しいことは知らないけれど成功の確率はあまり高くないみたい。だから監視する必要があるのよ。他の方法よりは安全だと」
「他の方法って?」
「崖や運河や線路や屋上から突き落としたり廃車に閉じ込めて練炭を燃やしたり、首を吊らせたり密室にしてアルコールで酩酊させてガス栓を捻ったり、風呂場で硫化水素を発生させたり、林道や海上で行方不明にしたり、羽交い絞めにして手首をかみそりで切ったり、裸線で電気を流したり、睡眠薬を粉末にしたものや農薬を鼻をつまんで大量に飲ませたり」
 聞いていて土岐は背筋に当たるエアコンの温風が極北の寒風のように感じられてきた。二の腕に泡のような鳥肌が立った。平然と話す奈津子の表情にそら恐ろしい魔性のようなものが潜んでいる。
「女の子ばかり自殺や事故に見せかけて殺す目的は何なんですか」