祭りのあと

「あなた方の秘密はまだ何も知りません。むしろ知ってしまえば抹殺されそうで聞きたくもありません。だから僕を自由にして下さい」
「もうそれはできません。手遅れです」
「それはできないって僕がいったい何をしたと言うんです?僕はただ生活のために僅かばかりのカネが欲しくてアルバイトをしただけじゃないですか。あなた方が何をし、何を考えているか知らないけど、そんなことに全く興味はないし、知りたくもありません」
「では、ほんの少し説明しましょう。あなたがあのバッジを見てしまったことが、あなたにとって致命的だったのです」
「あのバッジのことだって、僕はまだ何も知りません」
「そうかも知れないけれど、刑事さんに言ってしまったでしょ。この件についても、刑事さんには、長田に会って聞いた話としてこう伝えて下さい。あのバッジは日本メソポタミア同好会の会員バッジだって。あの楔型文字はジャパンのjと日本のnを複合させたもので会員はみんなあの楔型文字が、斜めになるようにつけているって」
「でも、そのバッジが、なんで、都営住宅の少女が転落した現場に落ちていたんですか。その説明がつかない限り、墨田署のあの刑事さんは、きっと捜査をやめないと思いますよ」
「私もよくわかりません。日本メソポタミア同好会の会員の一人が、そこを通りかかって何かの拍子に偶然落としたものでしょう」
「ねじ式のバッジが簡単には落ちないでしょう。それに会員がたまたまあんなところを通りかかるという偶然はありえないでしょう」
「それについてはこれ以上何も言いません」
と言いながら額にかかる髪をかき上げて奈津子はアナログの小さな腕時計に目を落とした。
「そろそろ出かけないと、警察統計研究所へ、9時迄に間に合わなくなるわ。身支度をして下さい。昨日の水曜は気分がすぐれないので欠勤しますという電話を千住の近くの内科病院からということで私の方から入れておきましたから」
と言うと奈津子はベッド脇の小さなサイドテーブルの上に脱脂綿と絆創膏と鋏を白いエプロンのポケットから取り出して置いた。
「傷口の絆創膏を交換します。下を向いて下さい」