祭りのあと

 軽い二日酔いののどの渇きは多少和らいだ。コーヒーを十分に味わっていなかった。土岐は素直にお願いした。奈津子は再び室外に消えた。先刻の寂寥が再び襲ってきた。土岐は静寂の中にほっとした心持を感じた。朝から何も食べていなかった。コーヒーが胃壁を経由して体中に染み渡って行く。空腹のせいか、体中から力が抜けて行くような気もした。
「少し、濃い目に淹れてあります」
と奈津子が戻ってきた。土岐はガムシロップとミルクをたっぷり入れた。空腹を満たすように飲み込んだ。液体が喉から胃の中へ流し込まれるのを体感した。空腹の方は一向におさまらなかった。奈津子と一室に二人だけでいることの言い知れない充足感を味わいながらも空腹のせいか次第に手が小刻みに震えだした。ソファに寄りかかって座っていることさえやっとという状態になってきた。やがて体の中からストンと力が抜け落ちて行った。座っている体勢を維持できずに右側へ崩れるように倒れこんだ。ソファの中に体が融けて染み込んで行くような感覚があった。土岐の意識はそこで途切れた。