祭りのあと

「まだ入口をはいったばかりで」
「メインストリートの真ん中。アイスクリームコーンとリフレッシュメントコーナーの間あたりにいていただけますか。すぐ伺います」と言って電話が切れた。所在無く、ランダム・ウォークする人々が途切れたあたりを見回していた。暖冬の日曜日のせいか、家族連れが多かった。中高年の父親、それより少し若そうな母親、子供は二十前後から三歳ぐらい迄、男女様々だった。たった一人だけという入場客はいない。一分も二分も所在なげに立ち止まっている人もいない。五六分して奈津子が現れた。髪のセットに殆ど乱れがない。かろうじて額のあたりに一本だけ産毛のような短い髪が冷たい微風に揺れていた。髪を飾っているティアラは贋造に違いない。正真正銘のCDLのヒロインの雰囲気があった。華やかな雰囲気が土岐にもたらされた。人々の視線を集めていることに気付いた。
「お待たせしました。どのような御用向きで」
と純白の前歯を少しのぞかせて軽く息を切らせて奈津子が言う。
「じつは、運転手の方にちょっとお聞きしたいことがありまして」
「どのような質問ですか。私ですむようなことならお答えしますが」
「ご本人にお会いして」
「呼び出すのに少々時間がかかりますが」
「構いません」
「それでは、こちらへどうぞ」
と奈津子は静脈が薄っすらと透けて見える手を差し出した。
「そこのレストラン北斎でお待ちしていても構いませんが」
「そうもいかないでしょう。すぐそこです」
と土岐は案内されるままにキャラクターショップの2階の事務室の隣の応接室に通された。暖房がきいていた。人々に夢を売る業態の事務所の応接室にしてはインテリアも平凡でありふれていた。どこにでもあるような応接セットだ。外部の夢と内部の現実の落差が犯罪のように際立っていた。奈津子はその部屋に土岐を残して消えた。外部の喧騒から隔離され、一人にされた土岐は譬えようのない寞に襲われた。暫くしてコーヒーを持って奈津子が晴れやかに現れた。
「運転手は今呼び出しましたので、十分もすれば参ると思います」
 土岐は喉が渇いていた。出されたコーヒーをブラックのまま一気に飲み干した。奈津子は目を大きく見開いて微笑んだ。
「おなじコーヒーでよろしいですか」