祭りのあと

@新大阪で降りて、JRゆめ咲き線のワールド・シティ駅で降りると長田の写真館があるはずだ。店の名前は、長田フォトスタジオだ。昨夜渡したメモの住所だ。そのあとは明石の三州瓦の工場へ行って、隅田川で溺死した女子高生の父親の身辺調査をしてくれ。最後に、大阪府警の小関に会ってくれ@
 南條のメモを確認すると、明石の三州瓦工場の住所と長田尊広の戸籍と住民票の情報が書かれていた。長田は母親の浪江と配偶者の規子の三人暮らしだった。父親の隆は十数年に死んでいる。
 土岐はワールド・シティ駅で降りた。BMWの登録者の住所を書いたメモを見ながら運河沿いの工業地帯をマフラーを首に巻きつけてダッフルコートで歩いた。大阪の街中はそれ程でもなかったが、運河沿いでは海風が冷たかった。駅から十分程歩いたその住所には、敷地百坪程の二階建ての灰色のモルタル造りの外壁に、長田フォトスタジオという看板が掛かっていた。壁のモルタルに稲妻のような罅割れが走っている。築三四十年はたっていそうな古い建物だった。住所をもう一度確認すると11―4―3となっていた。デジャヴのような感覚が土岐の脳裏を捉えた。テーマパーク、湾沿いの運河、周辺に住宅のない店舗、番地。写真館の入口の周辺を歩いてみた。人通りがなく客が出入りする気配はなかった。玄関に近づいてよく見る。網硝子のドアノブに本日休業というプラスティックのカードがぶら下げられていた。その建物の周囲を外側から一回りして確認した。内部に人の気配は感じられなかった。玄関の両側にはショーウインドがある。七五三の記念写真や結婚式や成人式や見合い用や証明書用の写真が所狭しと展示されていた。七五三の記念写真に写っている少女に土岐の目が止まった。古い写真だった。白黒写真だがセピア色になりかけていた。飴の袋を提げ赤い着物を着ているが目鼻立ちが化粧をしているのではないかと見まごう程くっきりしていた。丸顔の美少女だ。その顔を少し細長くすると永山奈津子に似ているように見えた。帰りかけたとき浅黄色の作業服を着た5分刈りの中年の男がママチャリに乗って鼻歌を歌いながら通りかかった。
土岐は声を掛けた。男は一瞬怯えたように首をすくめた。関東弁に少し気色ばんだ。チャコールグレーのパンツの片足を地面につけた。
「この写真館ですが、ずっと休業ですか?」