辛い現実から目を逸らすように、ただ森の方に目をやる。もう、琴音を失った苦しみさえ失った。僕は生きているが、心がどこにもない。

 その時、音が聞こえた。

 この丘で絶対に聞こえるはずのない音だ。その音が心を取り戻す。

 僕は最後の望みを賭けて琴音の方を見た。