定期入れを鞄から出し、改札へ入ろうとした時だ。


「ちょっと待って」


 少しだけ大きく、それでいて本気で引き止めているかわからない声が、背後から聞こえた。

 ここまで感情が読めない人は、一人しか知らない。しかし、その人が僕に話しかけるなどあり得ない。真実を確かめるため、ゆっくりと振り返る。