「さようなら」


 木村先輩が振り向いた。大きい目がこっちを見ている。特に驚くわけでもなく、もちろんあいさつを返すわけでもない。彼女が目線を逸らすよりも早く、僕は帰る方向を向いて歩き始めた。

 あいさつが返ってくるとは、最初から思っていない。反応さえ返ってこないと思っていたので、こっちを振り向いたことに驚いた。