「あの、すみません」


 声が震えていた。木村先輩は歩みを止めて、僕の方を向く。整いすぎた顔が、まるで人形のようだ。


「なに?」


 彼女は無機質な声で言った。顔からも全く感情が読み取れない。それでも、昨日のことがあったので、歓迎されていないのはわかる。


「た、体調は大丈夫ですか?」


「大丈夫」


 特別、具合が悪そうな様子もなく、確かに大丈夫そうだ。これ以上話すことはないと言わんばかりに、木村先輩は再び歩こうとしたので、引き止めるように声を振り絞り出した。