あの虹の向こうへ君と

「えっと……」


 映画館で観た映像を言おうとした時ほどではないが、声がうまく出ない。今更、気がついた。告白なんて初めてだ。


「どうしたの?」


 木村先輩の言葉に動揺して、目を逸らしてしまった。とにかく言わなければと、焦りだけが募っていく。僕は言葉を絞り出した。
「あの、また先輩と遊びに行きたいんですけど……」


 言おうとしていたものとは、全然違う言葉が出てきてしまった。恐る恐る木村先輩の方を見る。


 きょとんと首を傾げていた。どうやら僕は相当変なことを言ってしまったようだ。恥ずかしさから、これ以上顔を見ることができず、下を向いてしまった。
「ごめんなさい。こんなこと言うために呼び出して」


「そうだね。これなら、メッセージでいいのに」


 淡々とした口調が、今はナイフのように刺さってしまう。これでは迷惑をかけるために呼び出したのと変わらない。気持ちが一気に沈み、階段から転げ落ちていくような気分だ。


「別に遊びに行くのはいいけど」


 この一言で一気に舞い上がった。このまま屋上に出て、叫びたいくらいだ。自分でもあまりに単純すぎて驚いている。
 俯いた顔を上げる。


「本当ですか!?」


「うん。本当」


 木村先輩はいつもの無表情に戻っていた。喜びが前面に出ていると思われる僕に、引いている様子もない。


「ありがとうございます」


「で、どこか行きたいところでもあるの?」


「あ、えっと……」
 そもそも、遊びの誘いをするために呼び出したわけではない。僕はなにも考えられず、咄嗟に言った。


「先輩が一番行きたい場所に行きたいです」


 木村先輩は大きく魅力的な口をぽかんと開け、僕をじっと見つめる。だが、すぐにいつもの顔に戻った。ほんの数秒の出来事であったが、長い時間のように思えた。
「考えておくね」


 そう言うと木村先輩は去っていった。彼女の後ろをつけるように、僕も階段を降りる。

 あの表情はなんだったのだろうか。これは遠回しに断られたのかもしれない。もやもやした気持ちを抱えたまま学校を後にした。

 また会ってくれるのなら、その時は告白しよう。
 二〇一八年、九月三十日、日曜日。

 約束の時間より二十分早く、大型商業施設の入り口に着いた。もう陽が落ちかけており、これから夜が始まる。

 また会ってくれる日はすぐに来た。告白できなかった日の夜に、映画を観たいというメッセージが届いたのだ。
 奇しくも、奈緒と最後に行った映画館だ。二週続けて観に行くとは思わなかった。同じ場所なのに、気持ちは全然違う。彼女が来るのが待ち遠しい。

 それにしても、木村先輩はなぜあの映画を観たいのだろうか。わざわざ理由を聞くのは失礼な気がして、特になにも言っていないがとても気になる。
 十五分くらい待っていると、彼女は現れた。
 私服の彼女と会うのは三回目だ。地味な服装もドッグタグネックレスも変わらない。


「こんばんは」


 相変わらず表情一つ変えないが、珍しく木村先輩の方からあいさつしてきた。なんとなく口元がいつもよりも緩んで見える。