ブラウンに両親はいない。ブラウンの父は、ブラウンが生まれてすぐ、旅に出たまま帰ってこない。ブラウンが知っているのは、父の名がアレック・シュガーという名前である事だけで、写真もないから顔も知らない。また母であるパーム・シュガーもブラウンが一歳に満たない時に、カナソードにブラウンを預けたまま突然行方不明になった。ブラウンには四歳年上の姉、メープル・シュガーがいるらしいという事しか聞いたことがない。実際に会った事はない。四歳のメープルと一歳に満たないブラウンをカナソードに託し、そのままパームの消息はわからなくなった。カナソードの収入では、経済的な理由から二人共を育てるのは難しい。そこでカナソードがブラウンを引き取って、メープルは、遠方のラウネリアの街に住む遠い親戚にあたるガーネットが引き取る事になった。だからブラウンは、本当の父の顔、母の顔、姉の顔を知らない。だがブラウン自身は、そのことについて全く気にしたことがない。孤独ではない。物心がつく前からカナソードがそばにいて、立派に父親としての役割を果たしてくれているからだ。ブラウンには、カナソードという大事な家族がいる。カナソードは優しくて強い。豪快に笑い、情に厚く、人間味がある男だ。剣の稽古はブラウンが幼い頃、遊びのつもりで剣を教えてみたところ、筋が良いので、つい熱くなって鍛え上げて今日まできてしまっていた。今では、そこら辺の男よりも強いレベルになっている。森の中の訓練場を後にしたブラウンとカナソードは、家路へ向かい、山を下りていく。

「父さん。今日は私が料理作るよ」

帰っている最中、ブラウンからそんな言葉が出てきた。
ブラウンのこの言葉に、カナソードはビクッとなり、顔が真っ青になって必死に言う。

「いっ……いやいや!!いい!!大丈夫!!大丈夫だぞ!!父さんは料理するのが好きだからな。お前は料理ができるまでの間、風呂にでも入って汗を流してくるといい」
「そっかぁ……。わかった。いつでも手伝うから遠慮せずに言ってね」
「ああ、ありがとう。お前は本当に優しい子だ」

カナソードは、内心ホッとしていた。