しかし時は、すでに遅かった。ブラウンはメープルの心臓の鼓動を聞こうと胸に耳を当てた。しかし心臓の鼓動は聞こえなくなり、メープルの体は、冷たくなっていた。

「そんなっ……そんなっ……ぐすっ……ううっ……ううっ……うわぁあああああ」

ブラウンは、花畑でメープルの体を抱きしめて、泣いて泣いて泣き続けた。

ブラウンは、どれくらい泣き続けただろう。
ブラウンは、メープルの死体を花畑の中央に移動させて、そっとその場を離れた。せめて姉の大好きな花畑の上で眠って欲しいというブラウンの想いだった。

ブラウンは、ボロボロの体を引きずりながら、ゆっくりゆっくり歩いてメープルの家を目指した。

「私が……私がもっと早く悪魔に反応できていれば……お姉ちゃんは……うっ……ううっ……」

ガーネット達になんて説明すればいいのだろう。そんな事が頭によぎった。
足取りは重く、肉体的にも精神的にも傷を負っているブラウンの歩みのスピードは、ゆっくりだった。

赤い屋根の家が見えてきた。ついにブラウンは、メープルの家に辿り着いた。
これからガーネット達に残酷な真実を告げなければならない。メープルの家の前で立ち、どう説明するか考えていて、なかなか中に入れないでいた。

「君。この家に何か用があるの?」

通りかかったおじさんが話しかけてきた。

「はい」
「ここはね。空き家なんだよ。以前は三人家族が住んでいたんだけど、数年前から行方不明になっていてね」

行方不明?
一体何を言ってるんだろう。このおじさんは。

ブラウンがそう思ったのと同時に、ブラウンはついに力尽きてその場に倒れ込んだ。

「君!?大丈夫か!?お、おい!!傷だらけじゃないか!!大変だ……!!」

そんなおじさんの慌てる声がぼんやり聞こえる中、ブラウンは意識を失った。