今日の授業が終わり、寮へ帰ろうと、校門をくぐろうとした瞬間。
私の目の前を風に乗って通り過ぎていったひとひらの花びら。
薄ピンク色の桜。
この辺りに桜は無い。
きっと私が見た事ない遠くの方から私の居る所まで飛ばされて来たのだろう。
桜…。
思い出すのは……一番思い出したくない人の名前。
引っ込めて!!
顔まで思い出す前に目をつぶって、私の脳に強く命令する。
「莉恵姉!」
私の名前は伊藤莉恵子。
私の名前をそう呼ぶのはこの世界中でただ一人。
伊藤加奈子。
中学3年。
私の妹。
「会いに来ちゃった」
開けたくないと思った両目を無理やり開けた時、サングラスにマスク、セーラー服の加奈子の姿をとらえた。
高城桜華。
その姿を見て思い出す名前。
私が一番思い出したくない人の名前。
加奈子のもう一つの名前。