「おう!」

 部活仲間は団結力が強い。けれど、みんなレギュラーに選ばれることに必死だ。もちろん仲間ではあるが、それを時にライバルとも言う。

 瀬戸は俺よりもうんとバスケがうまい。だから俺がレギュラーに選ばれるなんて想像もしていなかった。俺なんかよりも一歩も二歩も前を歩いていて、いつも俺は瀬戸の背中ばかりを眺めていた。

 だからこそ、思った。

 なぜ瀬戸ではなく俺だったのか、と。

 選ばれた嬉しさと選ばれた悩み。相反する感情が混在して。

「でもさぁ、俺にレギュラーなんてほんとに務まるのかなー……」

 思わず口をついて出る。

 どんなに努力しても、どんなに人より頑張っても、叶わないことなんて世界にはざらにある。そのせいで夢半ば諦める人を俺はたくさん見てきた。

「なんでそう思う?」
「だってさ、俺よりうまいやつなんてたくさんいるだろ。実際、瀬戸の方がうまいわけだし」

 レギュラーに選ばれたやつがそんなことを言うと嫌味にしか聞こえないかもしれない。が、実際その通りで、俺はどんなに努力をしても瀬戸を越えることはできない。

 それを今までに痛感してきた。

「はぁ? なんだよそれ」

 すると、さすがに俺の言葉にムッとしたのかわずかに眉間にしわを寄せる瀬戸。

「小牧を選んだのは監督だろ。小牧の練習を見てそう思ったんだから、おまえだって十分〝うまいやつ〟に入るってこと。自信もてよなぁ」

 俺よりうまい瀬戸にそんなことを言われる日が来るなんて思ってもいなかった。

「どうなんだろう……」

 俺は、バスケが本当にうまいのか。自分では判断できていない。

 きっと誰よりも自信がなくて、後ろ向きだ。

 ──バシッ。

 ふいに肩を叩かれて「いてっ」咄嗟に声がもれる。
 痛かった肩をさすっていると、

「なに弱気になってるか知らないけど、選ばれたんだからもっと自分に自信もてよ」

 瀬戸は、力強く言った。

「いや、でもさ……」

 大きなカバンを斜めにかける彼の姿は、とても偉大に見える。

 強くてたくましくて、そして友達思いな彼が、ひとまわりも大きく見えて。

「いつまでもそんな弱音ばっか吐いてると、俺がそのポジション奪ってやるぞ」

 ニカッといたずらっ子のように笑った。

 まるで俺の本音を悟っているかのような言葉に、心が突き動かされて。

「だっ、誰が貸してやるもんか。レギュラーになったからには誰よりも強くなってやるさ!」

 売り言葉に買い言葉で言い返すと、そうなることを見越していたのか「その意気、その意気」と笑って制服のポケットに手を突っ込んだ。

 やっぱり俺は、瀬戸には敵わない。

 そう思ったんだ。