「あーあ、俺ダメだったなぁ」

 部活終わりの帰り道、仲の良い瀬戸と二人で並んで歩く。瀬戸大我(せとたいが)とは中学からの知り合いではあるけれど、中学校は別々で。バスケの試合で顔合わせをする、いわばライバルだった。

「ちくしょー」

 項垂れるようにトボトボと歩く瀬戸は、よほど、悔しかったようで。彼の表情と態度から、滲み溢れていた。

「瀬戸……」

 いつもなら俺がそうやって落ち込む日々だった。一年の頃は、瀬戸が夏の大会にレギュラーとして選ばれていた。俺よりも上手くて実力も上で、俺が瀬戸に勝てるものなんかなかったからだ。

 けれど、今日は立場が好転していた。

 つまりそれは、レギュラー落ちを意味していて。
 何か言葉をかけてあげたかったが、今の俺が何を言えるだろう。何かを言ったところで嫌味にしか感じないんじゃないかと思うと何も言えなくて。

 すると、

「なんでレギュラーに選ばれたのにそんなに元気ないんだよ」
「いや、だってさ……」

 選ばれたのは嬉しいけれど、素直に喜べない部分もあって、口をつぐむと、

「小牧はレギュラーに選ばれて嬉しくないわけ?」
「いや、そりゃあ嬉しかったけど……」
「じゃあ素直に喜べよなぁ」

 バシッと軽く背中を叩かれる。

 おそらくは、俺に気を遣わせないようにしてくれてるんだろうけれど。

「うん、まぁそうなんだけど……」

 一旦冷静になると頭もはっきりする。そのせいで俺がレギュラーになってよかったのだろうかと不安になる。

「レギュラーに選ばれるってそうそう簡単なことじゃないじゃん。どんなに上手くても上がいるわけだし、だからといって絶対選ばれるとも限らないし」

 すると、俺を納得させるように淡々と言葉を告げられて、

「ま、まぁ……」
「だろ? それで小牧が選ばれてるわけだから、実力を認めてもらえたってことになるじゃん」
「実力ねえ……」

 たしかにレギュラーになるのは簡単ではない。日々のつらい練習にも耐え、休みの日は自主練だってやっていた。それを気づかれるのが嫌で、内緒で一人努力を積み重ねてきた。

 その成果が、今現れたと思っていいのだろうか。

「俺だったら小牧の前とか関係なく喜びまくると思うけどなぁ。なんていったって念願のレギュラーなわけだし! だからさ、お前も素直になれって」

 手放しで喜べるわけじゃないけれど、ライバルである瀬戸に褒められて嬉しくないわけはなく。

「……うん、ありがとう」

 戸惑いつつも受け取ることに。