「小牧」
監督の穏やかな声が落ちて、俺の口は固まった。
「俺はまだレギュラー降りることを承諾してはないぞ」
……え?
「で、でも、この前……」
なんだなんだ。わけが分からない。頭の中が真っ白に抜け落ちる。
「たしかに小牧がほんとに嫌なら承諾するとは言ったが、そもそも俺はお前をレギュラーから下ろすつもりなんてなかったぞ」
と、口元にわずかに弧を描いた。
あれ、そういえば瀬戸もそんなこと言ってた。
あいつの場合、口が滑ったって感じだったけれど。
「え、じゃあ……」
ゴクリと固唾を飲むと、
「ああ、小牧は立派なレギュラーメンバーだ」
俺を肯定する言葉が現れる。
まだ俺は、見捨てられていなかった。
まだ俺は、必要とされていた。
嬉しくてたまらなくて、目頭が熱くなる。
「まだ他のやつらには言ってなかったから、小牧が考え直してくれてよかった」
俺の前へやって来ると、ポンッと肩に手を添える。
そこから伝わる熱が心に伝って、感情を揺さぶられる。
「試合まで残り一週間だ。しっかり身体を整えて試合に全力で望める形を作っておくんだぞ」
見た目はすごく強面なのに、生徒思いの優しい監督に。
「……ありがとう、ございます」
目尻に涙がじわっと浮かぶ。それを隠すように頭を深々と下げた。
何事にも後ろ向きで、自分に自信なんかなくて、ダメなやつだと思い込んでいた。
けれど、俺を認めてくれる人がいる。
それだけですごく心強くて。
「頑張れよ、小牧」
俺の心を解きほぐしたんだ──。