「ほんと、小牧って一度決めたら譲らない頑固者だよなぁ」
声高らかに笑う瀬戸。
「……俺、頑固?」
「ああ。そりゃあもうかなりの、な」
どうやら俺は、頑固らしい。
自分では気付いていなかったけれど。
「まあでも、よかったよ。小牧がやっと素直になってくれて。これでダメなら監督に怒られるところだったわ」
一瞬で過ぎ去りそうだった言葉の一部に引っかかって、「え」思わず声を漏らす。
──〝監督に怒られる〟?
「……あっ、やべ」
慌てて口を覆った瀬戸は、逃げるように視線を逸らす。
「ちょっと待って。今のどういう意味?」
「いやー、俺もよくわかんない」
おどけたように言葉を濁すから、
「分かるだろ、瀬戸!」
俺が詰め寄ると、渋々観念したのか。
「分かったよ、話せばいいんだろ。話せば」
両手を上げて白旗を上げた。
「俺、監督に頼まれてたんだよ。小牧がほんとにレギュラーを降りたいのか確認してくれって。もしもまだ心に迷いがあるようならお前が引き止めてやってくれって」
観念してから、口が軽くなったのか瀬戸の口からは淡々と言葉が紡がれる。
「なんで……」
監督がそんなことを瀬戸に頼んでたなんて知らなかった。
監督は、俺に呆れて突き放すようなことまで言ったのに。
「なんでって答えは簡単だろ。小牧に大会に出てほしいからだろ」
「……俺に?」
「ああ、そうだ」
瀬戸は力強く頷いて。
「偶然でレギュラーに選ばれたわけじゃないって言った俺の意味、もう分かるだろ。ちゃんと小牧の実力が認められたんだよ」
「俺の……」
実力が認められて、レギュラーに……?
「それに監督は、はなから小牧をレギュラーから降ろすなんてこと考えてなかったってこと」
なんだ、それ。じゃあ俺が監督に直談判したあれは無意味だったってことなのか?
「な、なんだよ、それ……」
一気に脱力感が俺を襲って、ベンチにもたれかかって空を見上げた。
「俺が言うのもあれだけどさ、もっと自分に自信もってもいいんじゃねーの?」