「あー……いや、だから……」

 再度言葉を紡ごうとするが、レギュラーを降りる事実を言うことができなくなっていた。

「まー、よくわかんないけどさ、俺ら小牧のこと応援してるから頑張れよな!」

 そんな俺のことなどつゆ知らず、無邪気に笑う。

 自分に自信がなくてレギュラーを降りると言った俺は、一体この先どうしたいんだろう──。


 ***


 部活が終わって、一人帰ろうとしていると、

「小牧」

 聞き覚えのある声が背後から耳にするりと入り込んだ。
 ピタリと立ち止まり、振り向くとそこにいたのは呆れられたはずの瀬戸だった。

 なんで俺に声をかけるんだろう。

 あんなに呆れられるようなこと言ったのに。

「ちょっとだけいいか」

 ポケットに手を突っ込んで、困惑そうに微笑んだ瀬戸。

 どうやら気まずいのは、俺だけではなかった。

「……いいけど」

 だから俺は、渋々頷いた。

 それから二人、移動してやって来たのは、近くの公園だった。

 ベンチに二人、腰掛ける。

 けれど、瀬戸も気まずいのかお互いしばらく黙り込んだ。張り詰める空気に息を飲む音さえも聞こえてしまいそう。

「……あのさ、この前のことだけど」

 しばらくして、静寂な空気を打ち破ったのは、瀬戸だった。

 〝この前〟とは多分、あの話だろうな。

「ほんとにレギュラー降りんの?」

 ほらやっぱり。

「そのつもり…だけど」

 監督にだって話をしたし、今頃俺の代わりのレギュラーを選んでる頃だろう。

「それで小牧は後悔しねーの?」

 ──後悔か。

 そりゃあ、多分するんだろうな。

 レギュラーなんて夢のまた夢だと思っていたから。

「……しないよ」

 けれど、今更だ。

 俺のわがままを貫くわけにはいかない。

 確実に勝ちを取るなら、もっと強い人がレギュラーになればいい。

 ──そう、思っているのに。

 どうしてこんなに苦しいんだろう。

 自分で決めたことなのに、なぜ……

「──ふっ」

 おもむろに笑みが漏れた。

 何がおかしかったのだろうかと困惑していると、

「小牧、嘘つくの下手すぎだろ。バレバレだから」

 呆れたように、だけど笑いを堪えるように手で口を覆い。

「あれほどレギュラーに選ばれたくて毎日練習頑張ってたやつがこんなにあっさり引き下がるわけないだろ」

 今度はいたずらっ子のように歯を見せて笑った。