「俺、レギュラーを降りたいんです」
俺の鼓動は、嫌な音を奏でた。
時間は止まり、空間さえも静まった。
監督は一瞬だけわずかに目を見開いたが、すぐにそれは戻り、
「小牧、自分が何を言っているのか分かっているのか」
瀬戸と同じ問いを俺に向けた。
「はい、もちろん分かってます」
きっと監督には理解されないだろう。
俺がなぜ、レギュラーを降りたいと言ったわけが。
「なりたいと言ってもなれるようなものではない。努力しない限り選ばれもしない。あとになって訂正したいといっても無駄なんだぞ。それ全部分かっているのか」
再度、尋ねられるから、
「……はい、分かってます」
ぎゅっと拳を握りしめる。
全部、分かった上での覚悟だ。
「じゃあレギュラーを降りたい理由は何だ?」
──ここまで来たらもう後戻りはできない。
ほんとに、いいのか?
言いに決まってるだろ。
「俺の経験値ではレギュラーになれる器ではないからです」
──そうだ。俺は、誰よりも。
「…俺は、人よりも劣っています。シュートだってそんなに上手くなくて、取り柄だって特にあるわけじゃない。そんな俺がレギュラーで大会に出るとみんなの足を引っ張るだけです」
きっと大会に出たら、それこそ後悔することになる。
俺のわがままを優先させるより、自ら身を引いて部の勝利に貢献した方が絶対いいに決まっている。
「人に劣っているからレギュラーを降りたいのか?」
俺を見据えるように尋ねられる。
劣っている。
それを認めるのが苦しくて、ぎゅっと拳を握りしめて、
「……はい」
小さく頷いた。
「じゃあ小牧はレギュラーに選ばれて嬉しくなかったのか」
「嬉しかったです! すごく…!」
言葉を被せるように返事をした。
レギュラーに選ばれたときの幸福感がみるみる蘇ってきて。
「すごくすごく、嬉しかったです……」
俺にとってどれだけ嬉しかったか。夢でも見ているんじゃないかと思うほどに俺は信じられなくて。
「だけど、日に日に不安になってしまったんです。どうして俺だったのかなって」
俺よりもうまいやつなんてたくさんいる。
それなのになぜ俺だったんだろうか。
考えても考えても答えなんか出てこなかった。