「──小牧祐輔」
監督の薄く開かれた口からこぼれ落ちたのは、俺の名前だった。
「……えっ」
自分の名前が聞こえてきた瞬間、目の前が真っ白になった。世界が止まったと思った。
緊張のせいで時間の流れが分からなくなる。一秒なのか、それよりもっとなのか。信じられない現実に、想像もしていなかった現実に、俺は開いた口が塞がらなかった。
「小牧、返事は」
パチンッと弾かれたように一瞬にして目の前に引き戻されると、取り囲むように見つめられる視線の数々。
「はっ、はい……!」
俺は慌てて声をあげた。
緊張のあまり、少し声が裏返る。
「じゃあ次は一年いくぞ」
そのあとは何事もなかったかのように話を進める監督。周りの視線も俺から逸れる。
監督が話をしているのに、俺の耳はその声を拾えずにいた。なぜならば、頭の中は真っ白に抜け落ちそうだったからだ。
……俺が選ばれた? 夢じゃないのか? 俺なんかより上手いやつたくさんいるのに……
グイッと頬をつねると、その痛みはたしかに感じ取って。
じゃあこれ冗談でもないのか。ほんとにほんとの現実なのか?
「以上が今度の大会に出るレギュラーメンバーだ。選ばれたからって気を緩めて怪我したりするなよ」
次々と疑問が浮かび上がるが、それと同時に感じるもう一つの感情。
感じたことのない動悸と高ぶる気持ちと、全身を流れる血がドクドクとたぎっていて。この感情を一言で表現するには難しいけれど。
──ああやばい。俺、今すげー嬉しすぎて、気を抜けば声出してしまいそう。
「少しでも無理だと思ったやつは、補欠と交代するから選ばれたからって安心はしないようにな。気を引き締めて残り一ヶ月練習するように」
監督の言葉にみんな一斉に「はいっ」と声を揃えた。もちろん俺も。今までで一番大きな声だった。
レギュラーに選ばれた。
それは、ある意味自分を認めてもらえたみたいで。
──ああ、俺泣きそうだと思ったんだ。