母さんは、どうやら勘が鋭いらしい。

 ここで俺が話したとしても、おそらく認めてはくれないだろう。なんとなくそんな雰囲気を感じとる。

「祐輔?」

 慌てるべきじゃない。

 きっと、今はそのときじゃない。

 だから、

「何を言おうとしたか忘れた」

 適当に誤魔化すと、「おかしな子ね」肩をすくめて小さくため息をつくと、ダイニングテーブルから立ち上がりキッチンへ向かった。

 俺は部活が遅いから、母さんと食べることはない。先に食べているからだ。母さんがキッチンに立ったのは、今から帰って来る父さんのための食事を用意するためだろう。

「それより勉強はちゃんとしてるの?」

 なんの前触れもなく現れた言葉にドクリと嫌な音を立てる。

 正直、言って高校生ともなると両親と会話することはだいぶ減る。思春期にもなれば当然のことだ。

「あー…まぁ、それなりに」

 プラス俺の場合は、俺のわがままでバスケをさせてもらっているから結果を残さなければ大学でもバスケをすることは許されない。

 だから勉強だって疎かにはできないし、ちゃんとした点数を取らなければ部活に行くことだって許されなくなる。

「それなりにってあなたね……」

 一度手を止めると、前髪をかきあげて、

「私たちが部活することを許した理由、ちゃんと覚えているんでしょうね」

 〝理由〟なんて。

 そんなの嫌でも覚えている。

「……それはもちろん」

 今、こうしてバスケができているのは、その理由を俺が呑んだからだ。

「だったらちゃんと勉強なさい。今度の期末テストも結果、ちゃんと見せるのよ」

 母さんは、俺をすぐ子ども扱いする。

 それが気に障ったのが自分でも理解できた。

「……わかってる」

 喉の奥にもやもやと黒いものが渦巻いて、それを押し込むように水と一緒に溝落ちへ流し込んだ。

「そう。それならいいけど、もう二年生なんだからバスケばかりじゃなくてそろそろ将来のことも考えなさいね」

 呆れたように告げたあと、父さんのご飯の準備を再開させた。

 それからはもう俺には目も暮れず。

 ──もう二年生、か。

 確かにその通りなのかもしれない。

 けれど、高校二年生はまだ十七歳だ。

 十七歳の子どもが、自分の将来のことなんか完璧に考えられるはずがない。夢や目標があるならばべつだけれど、普通の十七歳なら夢なんてない、やりたいことだってない。それが当たり前の高校生だ。

 俺は、ただ漠然とバスケが好きでこれからも続けられたらと思っているだけで、それ以上のことはまだ何も決まってない。

 とにかく今は、目の前のことに集中するので精一杯で。

 けれど、俺は目の前のことさえも自ら手放してしまいそうで。そんな自分が弱くて情けなくて。

 俺は、実力を認められたわけじゃなく、きっとたまたま運がよかっただけ。

 ただ、それだけのことだ──