「そんなこともあったよなぁ……」

 一年くらい前に俺がボソッとしゃべったやつを、よく覚えているもんだと感心する。

「で、親には言えたわけ? レギュラーに選ばれたこと」

 打ち据えるように尋ねられて、バツが悪くなった俺は、

「いやー、それがまだ……」

 逃げるように視線をあさっての方に向ける。

「はぁ? なんでだよ。話しちゃった方が小牧の実力認められるのに」
「うーん、そうなんだけどさ……レギュラーに選ばれたからってまだ結果残したわけじゃないし」
「レギュラーに選ばれたのは結果残したも同じだろ!」

 まるでどんぐりの背比べでもしているかのような言い合いが繰り広げられる。

 瀬戸が思っているよりも俺の親は優しくはない。結果が全てだと思っている。
 だから、レギュラーに選ばれたと話したとしても、だからなんだと返されるのがオチだ。

 試合で結果を残さなければ、意味がないのだ。

「とにかくダメ元でいいから言ってみろよ。何か変わるかもしれないだろ」

 ポンッと肩を叩いたあと、

「じゃー俺こっちだから」

 軽く手を振ると、突き当たりを俺とは反対の方へ歩いて行った。


 ***


「祐輔、あなた最近帰り遅いわよ。学校で何かあったの?」

 家に帰り着いて、夕飯中、母さんが尋ねる。

 〝とにかくダメ元でいいから言ってみろよ。何か変わるかもしれないだろ〟

 瀬戸の言葉が頭の中でリピートされる。

 ほんとに話してみたら認められるのだろうか?

「実はさ──…」

 ゆっくりと口を開こうとしたが、のどの奥から言葉が出てこなかった。

 あれ、なんで俺声が……

「祐輔?」

 固まる俺を不審に思い声をかけられる。

「あ、えっとだから……」

 普通のときは声が出る。

 もしかして俺、まだ勇気がないのか?

 言ったとしても母さんに認めてもらえるか分からなくて怖いのか?

「……なんでもない」

 だから俺は、言わなかった。

 ──いや、正確には言えなかったのだ。

 俺にはまだ勇気もなければ自信もない。

 こんなやつがレギュラーに選ばれたといって、誰が信じてくれるだろう。

「なんでもないって顔してないわよ。おまけに今、何か言いかけたでしょ」

 母さんは、打ち据えるように言葉を落とす。

「もしかして部活が関係してるの?」

 さらに続けてそんなことを告げるから、俺は一瞬ひるみそうになる。