「何の話だ?」

モアイ像は宏美に歩み寄ると、その隣に座った。

宏美は左手の薬指につけているビーズの指輪に視線を向けた。

「俺は、あいつ…心美を幸せにすることができなかった。

幸せにしようとする前に、俺は交通事故に遭って“この世”からいなくなった」

そこまで話すと、宏美はモアイ像に視線を向けた。

「続けて」

モアイ像は続きをうながしてきた。

「だけど…俺が死んだのは間違いだったと言うことがわかったから、俺は女として“この世”に生まれ変わって、“日出ミヒロ”と名乗って生きることになった。

半ば強引にだけど、生前に所属していたバンドにまた入った。

バンドのことを悪く言われたのはもちろんあるけれど、心美のそばに少しでもいるための方法だと思った俺の判断だった」

宏美はしゃべり過ぎたと言うように、唇を閉じた。