長い髪を洗うことと乾かすことになれてきた。

「できるようになったじゃないか」

ドライヤーで髪を乾かした後、ブラシで髪をとかしている宏美にモアイ像が声をかけてきた。

「まあね」

宏美はクイッと口角をあげて得意気に笑った。

髪を全て左側に寄せると、紺色のリボンのバナナクリップで髪をまとめた。

青いプラスチックバッグから楽譜を取り出してテーブルのうえに置くと、ギターを手に持った。

いつものように練習を始めるのかと思いながら宏美の様子を見ていたモアイ像だったが、その様子がどこかおかしいことに気づいた。

「どうかしたか?」

モアイ像は宏美に声をかけた。

宏美は目を伏せると、
「――俺って、薄情者なのかな?」
と、そんなことを呟いた。