(さすがに出るのは無理だよな)

今は違う人になってしまっている以上、それはできないと思った。

「お客様、チケットをお買い求めでしょうか?」

その声が聞こえたので、宏美は振り返った。

そこにいたのは、青いブルゾンを身につけている『ブルーグラス』のスタッフだった。

「い、いや…」

声をかけられた宏美は戸惑った。

チケットを買うにしてもお金がない。

そう思った時、
「ごめん、待った?」

そう言って宏美に声をかけてきたのは、白いパーカーにブラックジーンズの男だった。

「えっ、はい?」

いきなり声をかけられた宏美は訳がわからなかった。

(あれ?

何かこいつの顔をどこかで見たことがあるような…?)

突然現れた男の顔を宏美は観察するように見つめた。