「――ッ…」

お互いの唇が重なった。

(これが、本当に最後のキスなんだ…)

そう思ったら、次から次へと涙が頬を伝って落ちた。

唇が離れたのと同時に視界に入ったのは、宏美の顔だった。

「俺、幸せだったよ。

心美と一緒にいられてよかった。

初めて好きになった相手が、結ばれた相手が、将来を約束した相手が、全部心美でよかった」

「――私も…」

心美が言った。

「私も、宏美で嬉しかった。

宏美は私の初恋だから」

「そうか…」

宏美は返事をすると、周りに視線を向けた。

「武藤さん」

最初に目があったのは、武藤だった。

「ちょっと変わったところがあるけれど、いつも優しくしてくれてありがとう。

武藤さんがデビューするその日まで、あの世で見守ってますから」

そう言った宏美に、武藤は潤んだ目で微笑んだのだった。